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「できるなら何もやりたくないのかも」&SUGARの魅力にケーキではなくSNSから迫る【ひたち中の人#1】

SNSを使った多様な発信のかたちを探るため、ひたちなか市内のお店や企業の公式SNS『中の人』のハウツーを紐解いていく新連載「ひたち中の人」
中の人たちがSNSと向き合い、歩んできた物語をインタビューでたどります。

「できるなら、何も発信したくないんです」。そう話してくれたのは、& SUGARの柚賀さん。

夫の哲也さんとともに2011年11月にオープンした& SUGAR(アンド シュガー)。
同時にはじめたお店のSNSをどう続けるのがお店と自分に合っているか。日々自問自答しながら、さまざまなSNSを調べて試す探究心と、あくまで自分らしく好きなように続けたい信念を合わせ持つ、そんな"あまのじゃく"な柚賀さんのSNSの向き合い方を聞きました。


【& SUGARで運用しているSNS】

▼Instagram

▼X

https://twitter.com/and_sugar

▼Faebook

─まずは、SNSの発信をはじめたきっかけを教えてください。

柚賀:はじめは、FacebookとTwitter(現X)をメインでやっていて、後からInstagramもはじめました。
東日本大震災があった2011年の11月にお店をオープンしたんですが、私たち自身、その年の夏にひたちなか市に引っ越してきたんです。当時は個人でTwitterを使っていて、震災後の、しかもまだ住み慣れていないまちで、いろいろな情報を拾うためにSNSが役に立ったという経験があったんです。

それに、以前デザイン会社に勤めていたこともあり、ネットに詳しい同僚たちに恵まれていて、みんなから「FacebookとかTwitterはやっておいたほうがいいよ」って言われていて、「お店をはじめるときにはやろう!」ってずっと考えていました。

えーっと、Instagramをはじめたのは2014年でした。今日のために調べてみたんですよ(笑)。私個人でも、この頃にInstagramをはじめていて、それでお店でも…と思ってはじめたと思います。
それからは、3つのSNSの中で更新頻度のバランスが少しずつ変わっていって、今はInstagramとXに落ち着きました。


できれば何も発信したくないのかも

─今でこそ、お店のSNSがあるのが普通ですけど、少し前はそうではなかったですよね。

柚賀:ブログをやっている人の方が多かったですね。無料で手軽にアップできてすぐ見てもらえるSNSが一般的になってきたのは、震災の後だったような気がします。当時はまだガラケーの人もけっこういましたよね。

あと、うちはチラシとかは作らないって決めてるんです。紙媒体のお知らせにはお金をかけないって。広告も出さない。とてもあまのじゃくな性格なんです(笑)。
願わくば、広告を出さなくても(お客さんに)来てもらえたらありがたいなぁって。でも、やっぱりお知らせがないと行きづらいだろうなとは思うので、唯一できそうなのがSNSだと思ったんです。

過去には新聞に取材記事を載せていただいたこともあるんですが、基本的にはお断りしているんです。この状況(インタビュー中)で申し訳ないんですが(笑)。その時間がもったいないと感じてしまって。「この時間ってなんなんだろう」って思ってしまうんです。だったら手を動かして、ケーキを作っていたほうがいいと思ってしまう。

でも、今回の取材はSNSを考える機会になって、私の中でもすごくタイミングがよかったので受けさせていただきました(笑)。「このままSNSをやっていいのかな?」「なんでSNSをやっているんだっけ?」って思うときもあって。好きで(発信を)やっているという感覚はないので、考え続けていると、「できれば何もやりたくないのかも」って行き着くこともあります(笑)。


SNSの良い面も悪い面も探りながら使いたい

─それでも柚賀さんがSNSを使い続けてこれたのはなぜでしょうか?

柚賀:過去に「お店のLINEアカウントを作りませんか?」という営業を受けたことも何回かあるんですが、素直に「全然興味ないです」って言ってしまってひかれちゃうんです(笑)。
私自身、最近LINEをダウンロードしたような人で、なくても日頃の人間関係で困ることもなかったので、あまり必要性を感じないんです。
上手に使いこなせる人は使ったほうがいいと思うんですけど、自分はたぶん性格的に合わないかなって。できれば何もかもやりたくないんです、きっと(笑)。だからたぶん、今はInstagramとXがちょうどいいんです。

SNSをよく見てくださっている常連さんは、お店に来たときに「今日は忙しそうだから投稿がないのかなと思ってたんだよ〜」とか話してくれて(笑)。私たちを見てくださっている人たちは、「私たちのこの感じ」をSNSからも察してくださってるのかなぁって、かってにありがたく思ってます笑。
「今日は何のケーキが出てるかの投稿がなかったから、忙しいのかなと思ったけど電話しちゃった」って言ってくれたり。SNSの発信がお客さまに届いているって実感できて、うれしいですよね。

SNSって一方的な感じがするんですけど、でも信頼関係で成り立ってると思うんです。私たちはケーキを売りますし、買っていただいてお金をいただいてるけど、お客さまが上でもこちらが上でもなくて、お互いの信頼関係の上で成り立っていると思っています。SNSもたぶん同じだと思うんです。ひどい言葉を投げかけられたらもう関わりたくないと思ってしまいますし、強い言葉はできれば受け取りたくなくないです。逆に、お互いの気持ちがフィットしたら良い関係が続くと思うんです。
例えば、私はひたちなか市公式Xを見ていると「いつも素敵な写真を発信して広報がんばってるなぁ」「ちょっとここに行ってみようかなぁ」とか、なんか応援したくなるんです。みんな『何か』あるから、フォローしたり見るんだと思うんです。ソーシャルメディアって、悪い面もあれば良い面もあって、うまく探りながら使っていけたらいいなって、最近思います。

あと、ケーキ屋なので「差し入れでもらって美味しかったから買いに来ました」というお客さまも多いんですが、素敵なお客さまって素敵なお客さまを呼んでくれるんです。SNSの発信や交流も大切ですけど、こうした素敵な現実のつながりは、そのままあり続けてくれたらいいなと思います。


お店もお客さんもSNSを使い分けているはず

─同じお店のアカウントでも、SNSによって性格が違ったりしますよね。

柚賀:Xは一番はじめに運用したSNSなので、当時のなごりで他のアカウントをたくさんフォローしてたり、いいねしたりしているんですが、Instagramは初めからフォローはしなかったので、今もそれを貫いているんです。なんとなく住み分けていて、Xでは交流も持って、Instagramはただただ写真を投稿する。「Instagramだったらみんな写真が見たいんだろうし、そんなに長い文章は読まないだろうなぁ」とかって割り切ってます(笑)。最終的には、やりたいようにやっているだけなんですよね。たぶんお客さんも、自分の好きなように使い分けしてくださっている気がしています。
好きなようにやらせてもらってきたからこそ、今の(& SUGARのSNSの)形があるんだと思います。だから、いろいろ迷いはしますけど、苦には思わず続けてこれたのかな。

お店のホームページもあるんですが、すごーくシンプルなページになっています(笑)。もともとシンプルにはしたくて、お店の雰囲気が伝わればいいなと。SNSがある今、ホームページって必要なのかなって考えたりもしましたけど、ホームページからSNSに飛んでもらうこともできるので、残していきたいと思っています。あ!でも、SNSのアカウント名をお伝えしたけど忘れられてしまったということもあるので、ネットで検索したときの着地点がひとつあるのはやっぱり安心ですかね。


個人のお店という個性・自由を失わないように

─SNSの発信で気を付けていることはありますか?

柚賀:SNSの雰囲気だけを見て、すごく期待値を高くしてハードルを上げて、それでお店に来て絶望した方もきっといると思うんです(笑)。自分もお客さんのときに「なんか違ったかも…」って思った経験もあります。
でも、それはそれでいいと思いますし、一度来てもらって合わなければ合わないでしょうがないのかなって(笑)。だからこそ、うそは言わないというか、写真でも文章でも、良く見せようとし過ぎないようにしています。

そもそも、営業中に写真を撮ることはすごくむずしくて。生菓子なので早く撮らなきゃ!と思うと、じっくりは撮れないんですよね。なので、スマホからお店とは直接関係のない写真や画像を持ってきて、お知らせ投稿に使うときもあります。ケーキの写真載せなよって思いますよね(笑)。でも、お客さまから「(投稿した写真を見て)どこに行ってきたの?」って聞かれたりするので、会話のきっかけにもなっていいかなって(笑)。

「個人事業主だし。自由だし」って、なんでもそう思ってやってます(笑)。SNSでも、やっぱり人と人だから相性があるので、合わないなって方はしょうがないかなと。その人(お店)を見続けるか一旦離れるかは自分で選択することなので、だれかをどうにかしようとかは全く考えません。「もっと(投稿を)こうしたほうが…」とかいろいろ意見あると思うんですが、あんまり聞かないです(笑)。好きにやらせてもらってます。だれかの意見を聞いてブレてしまったら、自分たちの大事な軸がどこかにいってしまう。だからその分、「これは続けるべきか…」とか常に自問自答をしているのかもしれません。

─一方で、個人事業主ならではの悩みもありますよね?

柚賀:個人でお店をやっていると、どうしても社会的問題の影響を直接受けるんです。物価が上がると材料費も上がります。そうすると、どうしても商品の値段も上げなくてはならない。
自分自身、お店をはじめてから世の中の出来事に興味関心が増したと思う。ただ美味しいものだけを発信するのではなく、もっと関係している社会的な問題についても発信していいのかなって。この問題の影響を受けているからお値段が変わるんですって、お知らせする。いきなり「原材料の価格高騰による値段変更のお知らせ」って発信しても、だれも実感が湧かないと思う。全国的、世界的な問題なんだよって、ちゃんと伝えることも大切なのかなって思います。

SNS運用で言うと、私はお店のSNSもやりつつ個人でもやっているので、個人でやっている感覚をお店のアカウントで生かせるし、逆もそうですね。双方向でメリットがあると思うんです。それに、ネットの免疫がつくというか、耐性が違う気がします(笑)。
お店をやっている友人と話していると、それぞれSNSの使い方に個性があるなと思うんですが、みんな本当に上手に使ってて、聞いてて勉強になるんです。Threads(スレッズ)とか新しいSNSもいろいろあるじゃないですか?「Threadsやってるんだ、、、Threadsなぁー…」って(笑)。これ以上広げるのは大変かなぁとか考えながら、今は様子を見てます。

あと、SNSとはいえ人がやっていることなので、人柄って出ますよね。いろんなお店とか企業のSNSをフォローしてるんですが、情報だけ載せているところってあまりなくて、ちゃんと自分たちのお客さんが好きそうなテイストであげてますよね。色があるというか。
うちも「こうしてほしい!」とかお客さんに思われてるのかなぁ(笑)。


自分とお客さんに「永遠に役に立つもの」ってなんだろう

─SNSを含めて、お店の情報発信で心掛けていることがありますか?

柚賀:はじめの頃は、お知らせとかそういうケーキを作る以外のことに頭を使って、忙しくなってへろへろになりながらやってました。それから、自分に合うもの合わないものを一つずつ選択しながら、今やっと固まってきたのかなと思います。
なので、今回は良いときにお声をかけていただきました。自分からSNSをはじめたくせに、どこかで面倒だと感じているところもあったんです(笑)。私はたぶん、広報向いてなくて。広報と営業と接客がまったく向いてないんです。なんでやってるんだろうって話なんですけどね(笑)。でも、今回いろいろ振り返ってみたら、悪いことばっかりじゃなかったなって。

今は自分が一番使いやすいやり方でできてますね。好きなようにやらせてもらっている発信を見てくださる人がいる。本当に恵まれていると思います。
SNSを含め、だれかを貶めたり、誹謗中傷をしなければ、自分の好きなようにやってもいいんじゃないかなって思います。

─なんでも試して経験しながら、自分に合ったものを見つけていったということでしょうか。

柚賀:そうですね。うちの一番大事な情報は「今日何(ケーキ)があるのかお伝えすること」だから、いろいろ難しいことはまあいいやって(笑)。大事なのは、営業してますよってことと、生きてますよってこと(笑)。

「今、これが美味しそうですよ」って伝えられたらいいですね。SNSに載せた商品ってやっぱり反響が大きいんです。載せた後に「それ取り置きで!」って連絡もらうことも多いです。SNSがなかったらお店つぶれてるかも(笑)。見てくださって本当にありがたいですね。ちゃんと(情報を)拾ってくださる人がいるってことは、うれしいなと思います。
……まぁなくてもやっていけるかなとも思うんですけど(笑)。いやー、でもそうやって見てくださる方が一人でもいてくれるのなら、これからも続けていきたいかなぁ。ほんとあまのじゃくですよね(笑)。


お店を好きでいてくれる人のために続けたい

─SNSを含めて、今後の目標はありますか?

柚賀:お店を出したとき、前に勤めていた会社の上司の方に「いっぱいの人に好かれなくてもよくて、ひとりファンがいてくれればいいんだよ」って激励の言葉をもらったんです。
私は、「そのひとりのファンの方がお客さんを連れてきてくれる」「少数精鋭でいこう!」みたいな意味だと受け取ったんです。

自分が楽しいと思わないことは続けられないし、自分がいいと思って作ってないとね。なので、SNSもなんだかんだ楽しくやってきたんだと思います。だから続けてこれたのかな。お店と一緒に13年続きましたし(笑)。

あと、個人的にはnoteに興味があって、自分だけ見れる設定にして考えごとを書き溜めてたり、もし公開できたら「お店としてこんなコンテンツを考えてるよ」とか、思いを知ってもらえる場にできたらなって。文章書くの苦手なんですけどね(笑)。


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お店のことを考える自分、実は何もやりたくない自分、ネットが好きな自分、と「自問自答」しながら、やりたいこと・好きなこと・楽しいことという揺るがないスタイルを軸にSNSを続けてきた柚賀さん。
信念を貫きつつ、それでも一つ一つの媒体にしっかりと向き合い、自身の経験を必ず踏まえて取捨選択していく柚賀さんのSNSの向き合い方を語ってもらいました。

連載「ひたち中の人」では、これからも市内の企業・お店公式「中の人」たちがSNSと向き合い、歩んできた物語をインタビューでたどり、お届けしていきます。次回をお楽しみに。

& SUGAR(アンドシュガー)
平日 10:00-18:00/土日祝 10:00-17:00(無くなり次第終了)
水木定休&不定休 ☎︎029-353-5132
ひたちなか市堀口613


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